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ウト・ピクトゥラ・ポエシス

詩は絵のごとく/絵は詩のごとく

―人文主義絵画理論―

レンスラー・W・リー

森田義之/篠塚二三男 訳

¥1,980(税込)

2021年10月刊行

本書は、ルネサンスから18世紀末に至る西洋絵画を根底で支えていた「理論」の存在を指摘し、その源泉である古代ギリシア・ローマの文学や弁論術の理論との関係、美術理論としての具体的な内容を詳細に論じたものである。この理論を集約した標語として用いられたのが、古代ローマの詩人ホラティウスの『詩論』中の「ウト・ピクトゥラ・ポエシス(ut pictura poesis 詩は絵と同じ)」という句であった。この理論によれば、優れた絵画には物語主題が不可欠で、物語を持たない風景画や静物画は、どれほど見事な技巧で描かれていても、優れた絵画になりうる資格を欠くと見なされたのである。

今日から見ると絵画の評価基準としては疑問のある理論だが、本書を読むと、それが誕生したルネサンスのイタリアでは画期的な意義があったことがわかる。当時、古代ギリシア・ローマの諸学問が再発見され、それらを研究する古典学者たちが、古代の先人を手本として新しい学問の発展に貢献したことはよく知られている。しかし、美術に関する古代の理論は伝わっておらず、美術家たちは、やむなく古代の文学理論を応用して美術理論を構築することになった。彼らは自分たちの仕事を、従来そう思われていたような職人的な手先のわざに留まるものではなく、詩人や古典学者のそれと肩を並べる知的営為として意識し、社会の中で彼らのような高い地位を獲得するための理論武装を行おうとしたのである。この理論武装に特に積極的だったのがレオナルド・ダ・ヴィンチで、彼の絵画論は本書にしばしば引用されている。

「ウト・ピクトゥラ・ポエシス」の理論は、17世紀になると実作者よりもむしろ批評家によって精錬され、やがて定式化に向かい、18世紀末から19世紀初頭のロマン主義の時代に反発の対象となって凋落する。だが、この理論は19世紀にも西洋の絵画観の深奥に存在し続けた。印象派の風景画に対する当初の批判も、この理論と無関係ではないかもしれない。一方、この理論の全盛期にも画家たちは必ずしもそれに拘束されてはいなかった。16世紀イタリアのタッソの叙事詩『エルサレム解放』の中の恋人たち「リナルドとアルミーダ」のエピソードの絵画化例の分析を通して、17世紀フランスのプッサンをはじめとする画家たちがこの理論にどのように対応したかが考察されるのも、本書の読みどころの一つである。

著者レンスラー・W・リー(1898-1984)はアメリカ合衆国の美術史家。本訳書には、プリンストン大学でリーに学んだ辻成史大阪大学名誉教授による師の思い出を収録してある。

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